釣り堀

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上原歩夢という女の子

 気づけば今年も暮れ。つまり秋アニメがぼちぼちと最終回を迎え始める時期でもある。わたしの見ているアニメでも有終の美を飾ったポツポツとアニメが現れ始めた。

 クールの終盤はそれぞれのアニメが物語の山場を持ってくるので最大の盛り上がりを見せ、最近わたしが熱心になっている「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」もその”山場”を迎えたところだ。12話「花ひらく想い」はスクールアイドル側のメインである上原歩*1にフォーカスを当てた話だった。

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  それを受け、リアルタイム視聴していたわたしは感極まって涙を流すことになった。アニメに真剣になって泣いている瞬間が”生”。

 本来であれば最終回を見届けてから作品全体を再度見渡し整理したかった。けれども残念ながら年末年始はバイトの連勤があるため、作品を見直す時間も整理する時間も用意できそうにない。なので、ひとまず上原歩夢」という女の子に焦点を合わせて文章を残しておきたいと思う。年末年始が終わったらそのとき改めてアニメ虹ヶ咲に向き合おう。

 今回はわたしの中でも整理しやすいよう、時系列順に歩夢の辿った道をなぞっていく*2


1話「はじまりのトキメキ」

東京・お台場にある自由な校風と専攻の多様さで人気の高校・私立虹ヶ咲学園に通う上原歩夢と高咲侑は、幼馴染の高校2年生。いつも一緒の2人は、その日も学校が終わるとお台場をブラブラ歩きまわり、ショッピングやカフェを楽しんでいた。昨日から続く――そして明日も続いていく、いつもと変わらない放課後。そんな中、突然歓声が響き渡る。駆け寄る歩夢と侑の視線の先に写ったのは、圧倒的なパフォーマンスを見せつける1人のスクールアイドルの姿で…。

 

 「はじまりのトキメキ」…12話を見たことによって改めて意味を実感するサブタイトル。せつ菜のライブを見たことは、トキメキを求めていた侑にとってはもちろん、歩夢にとっても始まりだった。

 正直、侑がスクールアイドルにときめいていたから、その対象を自分が独占するため歩夢もスクールアイドルの道を踏み出したのか?と邪推していたところもあった。12話を見るまで上原歩夢のことを分かっていなかったから。だが、1話を素直に見ればステージで歌うせつ菜の姿に感化されていたことは自明だったのだろう。今なら疑うことはない。歩夢はスクールアイドルという存在に憧れを抱いていた。

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 せつ菜のライブを見た二人は、スクールアイドル同好会の部室に赴くもせつ菜がスクールアイドルの活動をやめたことを知り、一度は今まで続いてきたいつもと変わらない時間に戻ろうとする。しかし、それを受け入れず夢へ向かって先に一歩踏み出したのは歩夢だったのだ。

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 ここで歩夢は前に踏み出し胸の内に秘めていた想いを侑に告白する。ピンクや可愛い服が今でも大好きで着てみたいこと、自分に素直になりたいこと、スクールアイドルをやってみたいこと――。

 まだ最終話が放送されていないため10割確信を持って言えることではないが、アニメ虹ヶ咲において重要なテーマとして描かれているものの1つに「自分に正直になること」「芽生えた想い(衝動)を無視してはいけない」があると思う*3。そう考えれば、ここでの歩夢の告白は物語の核心を表したものだ。 

歩夢「本当は私もせつ菜さんに会ってみたかった。けど会っちゃったら自分の気持ちが止まらなくなりそうで怖かったの。それでも、動き出したなら止めちゃいけない。我慢しちゃいけない――。

 個別回を含め、全編通してこのテーマが徹頭徹尾 貫かれているように感じる。衝動を抑え込む鎖は己自身の内側、または自分の外側(=他者)に存在しているが、それでも気持ちを我慢してはいけない。動き出したなら止めちゃいけない。我慢しちゃいけない――。」このセリフが虹ヶ咲というアニメの全容を視聴者に示す役割と同時に、12話の答えともなっている構成が余りに綺麗。歩夢の始まりはここにあり、12話でさらに一歩を踏み出す理由もここにあったのだ。

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 そして上原歩夢は歌い始める。自分を見てほしいたった一人のために。

Dream with You

 1話のライブは「不思議の国のアリス」をモチーフにしたものだ。自分の心の奥を隠していた歩夢が侑と一緒に歩き始めるまでが歌詞と映像で表現される。

 

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  Aメロは願望を抑え込んでいた歩夢を象ったもの。映像もステージから舞台裏へと移り、本当は歩夢が好きな可愛い服やぬいぐるみが隠されている。舞台裏(=他者から見えない部分)に歩夢の好きなものを隠しているあたりが歌詞とリンクする。

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 そして赤いバラの蕾に包まれる歩夢。「不思議の国のアリス」において、赤いバラはハートの女王のご機嫌を取るため庭師が白いバラにペンキで上塗りした偽りの色だ。赤いバラは本当の自分の色を偽って過ごしてきた歩夢と重なっている。

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 次にBメロの歌詞で、侑がいたからスクールアイドルを始める決心ができたことを告白する。

 サビでようやく歩夢は夢へ歩き出す。背中を押してくれた侑と共に…。偽りの色で塗られていたバラは白く咲き誇り、本来の色を現す。

  この読み方はだいぶ腑に落ちていて*4、侑との関係に変化が生じるのを拒み、常に隣にいてくれることを望む姿そのものだろう。「Dream with You」…罪深すぎる曲名。


 

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歩夢「私の夢を一緒に見てくれる?」

 こうして歩夢は夢へと歩き始める。まだ自分に自信がなく不安さを抱えた顔をしながらも、侑が共に歩んでくれるから大丈夫だと信じて――。

 アニメ虹ヶ咲1話では今後訪れる問題と、その答えの種が既に蒔かれていた。始まりでもあるし、物語における到達点も全てここにあったのだ。12話を見た今、改めてとんでもない1話だったと実感する。


2話「Cutest♡ガール」

生徒会長の中川菜々によって廃部となってしまったスクールアイドル同好会。その勝手な決定に納得のいかない1年生の中須かすみは、なんとしても同好会を復活させようと奮闘するが、誰からの協力も得られなかった。ふてくされていたところへ通りかかったのは、スクールアイドルを始めようとしていた歩夢と侑。2人を誘い、さらなる部員募集のために自己紹介動画を撮る提案をする。自然に自分をアピールするかすみに対して、かわいいを上手く表現できないことに頭を抱える歩夢。そんな歩夢に、かすみは自分の思う「かわいい」を押し付けてしまい…?!

 

 2話「Cutest♡ガール」はかすみ回。歩夢に関するお話が進むことはなかったが、この時点で歩夢がどのような状態であるか示すシーンがあったので、そこをかい摘んで見る。しかし、2話は色の異なる他者との関わりの話で、アニメ虹ヶ咲にとって重要な回なことに間違いない。そこはまたの機会に注目してみよう。

 

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 かすみの方針に従い、「可愛い」アイドルを演じるべく物陰で特訓しているところを果林に目撃されてしまう歩夢。果林はこの一瞬で歩夢が自分の言葉を紡いでいないことに気づき、おせっかいと言いつつも「もっと伝える相手のこと意識したほうがいいわよ」、と助言を与える。

 果林のアドバイスを受け、自分にファンはいないが見てくれる人ならいると返す。そのとき歩夢の脳裏には侑がいた。

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 これが2話時点での歩夢だ。ファンはいないが侑がいる。まだ歩夢の心には新しい風が吹いていない。侑もまだ夢を見つけていない。だから、今はこれでよかった。


11話「みんなの夢、私の夢」

スクールアイドルフェスティバル開催に向けて動き出す同好会。しかし、生徒会へ提案するものの簡単にはいかない。申請書の見直し、会場の下見、パフォーマンスの練習とやることはいくらでもある。東雲学院や藤黄学園も巻き込んで、ホームページを作成したり、投書箱を設置して広く意見を取り入れようとしたりと奔走するが、一番の課題は会場が一向に決まらないことだった。やりたいことはバラバラ、だけど1つに絞らなければいけない。みんなの願いを叶えたい侑は思い悩んでいた。

 

 10話で侑からスクールアイドルフェスティバルの構想が明かされ、それに向かって早くも動き出した11話。フェスの開催に向け盛り上がる同好会の面々。しかし一方で、合宿の夜に侑とせつ菜が二人で会っていた場面を目撃してしまい、心中穏やかではなさそうな歩夢が一人浮いていた。

 11話ではフェスの準備に追われる侑を浮かない顔で眺める歩夢が特に強調されていた。侑が「みんな」と夢を叶えるステージ(=スクフェス)を実現するため奔放する姿を見て、自分から離れていくような不安を覚えているかのような描写の数々。10話の件からのこれなので、かなりの緊張感があった。

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 ある日の夜、仕事を終えた侑が部室で眠る歩夢に声をかける。f:id:Ro_Puru:20201222235339p:plainf:id:Ro_Puru:20201222235344p:plain

侑 「先に帰っててもよかったのに。」
歩夢「でも侑ちゃんまだ帰ってなかったの分かってたし、それにもし逆だったら、侑ちゃんだって帰るの待っててくれるでしょう?」
侑 「うん、そうだね。待っててくれてありがとう。」

 歩夢は侑を待つし、侑は歩夢を待つ。二人の関係を端的に視聴者へ提示する会話だったと思う。リアルタイムでは歩夢からの依存*5ばかりに目がいっていたが、それは侑も変わらない。せつ菜への言及で声色を変えるシーンは重い女にしか見えなくて笑ってしまう。

 

 そして11話終盤のせつ菜と歩夢のシーン。せつ菜の口からポロッと出てきた、侑がピアノをやっているという自分が知らない事実に歩夢はひどく動揺する。

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 自分の知らない侑がいることに、侑が自分から離れていくような錯覚を感じたのだろう。侑と一緒にいたい。今までと同様にこれからもずっと…。そんな願いを抱いていた彼女にとってこのことは重くのしかかる。

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 だから、そんなときに来た侑からのメッセージは救いの糸に感じだはずだ。自分から離れていくように感じている人間から連絡が来れば何かを期待せずにはいられない*6(しかもこんな内容であればなおさら)。どうしていいか分からなくなっていた歩夢にはそれこそ非常口に駆け込むような思いだったろう。

 そして目の当たりにする嫌な現実。部屋に置かれたピアノは彼女の知らない侑がいることを示していた。加えて、それが他の人間には明かされている事実に耐えられなかった歩夢はせき止めていた想いを侑へぶつけてしまう。

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 「せつ菜ちゃんの方が大事なの!?」の問いにすぐさま「違うよ」と最適解を選んで難なくやり過ごしたかに見えた侑。でも問題の本質はそこにはなくて、未来について語ろうとする侑を歩夢は止める。自分から離れだした侑が未来を語ることは、すなわちもっと遠く自分の手の届かないところまで行ってしまうことになる。それが歩夢には怖かった。

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歩夢「私の夢を一緒に見てくれるって、ずっと隣りにいてくれるって言ったじゃない。」
歩夢「私、侑ちゃんだけのスクールアイドルでいたい。」
歩夢「だから、私だけの侑ちゃんでいて。」

  体でがんじがらめに固定し、言葉で侑を縛る。歩夢が侑を一方的に引き止めるセリフに思えるこれが、その実 自らに対する戸惑いも内包しているものだった。「侑ちゃんだけのスクールアイドルで”いたい”」。自分がそうあるよう努めるから侑にもそれを求めているこのセリフの真意は12話で明らかになったもの。11話の時点ではひたすら重い女の子にしか見えない。ここで11話は終了となり12話が気になる引きとなった。 


12話「花ひらく想い」

「私だけの侑ちゃんでいて」という歩夢の言葉。しかし翌日、いつも通りに振舞う歩夢に侑は戸惑いを感じる。一方、東雲学院と藤黄学園の参加も正式に決まり、生徒たちの協力のもと、順調にフェスの準備が進んでいた。歩夢も応援してくれるファンのみんなを前に嬉しくなるものの、素直に喜べないでいた。気持ちの整理がつかないまま、歩夢はどうしていいのかわからず侑と距離を取ってしまう。

 

 11話で我慢できなくなった想いを侑にぶつけてしまった歩夢はいつも通り振る舞おうとするが、侑の見えないところでやはり曇った表情を浮かべている。歩夢本人によると「恥ずかしい」の一言で片付けられる出来事だったようで、本当に感情が抑えられなくなった結果の突発的な行動だったらしい。侑と物理的に接触したい欲望から出た行動じゃなくて安心したわたしと、少し残念なわたしがいた。

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 同好会のみんながフェスに向けて士気を高めている中、歩夢はアンニュイな雰囲気を漂わせ一人外を眺めている。侑のことを考えているのか、はたまたフェスに対するモチベーション自体がないのか、リアルタイムのわたしには分からなかった。なんとなく、歩夢は侑のためにスクールアイドルを続けていたいだけであって、みんなと楽しむフェス自体には興味がないのではと感じていた*7

 だが、自身のファンからの呼びかけには笑顔で応じ、その姿に嘘はないように見える。そして、ファンの子から自分には魅力があり、それをたくさんの人に伝えたいと熱弁される彼女の心は揺れていた。

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歩夢「自分では良いところなんて分からないけど、きょうこちゃんたちがああ言ってくれるのは嬉しい。同好会に入って数ヶ月。スクールアイドルとファンが一緒になって、どんどん世界が広がってる。侑ちゃんもすごく張り切ってて楽しそうでよかったなって…そう思ってるのに…。」

  このモノローグから上原歩夢の心の内が少しずつ見えてくる。侑以外のことに関心がないよう見えていたがそうではなく、スクールアイドルを始めてから世界が広がっていく内にファンになってくれる子も出てきて、彼女はそれを嬉しく思っている。同好会に入ってから順調に進んでいる、しかし歩夢の中では引っかかるものがあるようだった。

 

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 歩夢と侑が再び対峙する。侑はあの晩の続き、未来の話をしようとするも歩夢はそれを拒絶する。歩夢が一筋縄ではいかない女の子で、わたしは笑顔になる。侑は最適解を選んでいるように見えるのに。

歩夢「それって私と一緒じゃなくなるってことでしょ!?」

歩夢「侑ちゃんが一緒じゃなきゃ、私は一歩も前に進めないよ…。」

侑「そんなこと…。」

歩夢「あるよ!…あるんだよ…。」

  侑と一緒に歩み始めた夢への道。その道程は二人離れることなく共に進まなければいけないと自分に言い聞かせているように見え、消え入りそうな歩夢の声は、どうしようもなく八方塞がりになった状況を如実に伝えていた。

 

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 歩夢とせつ菜のシーン。ファンのみんなのおかげで同好会はここまで来られた、だからその気持ちに応えるため私たちは前に進まなくてはならない。せつ菜はそう言う。

歩夢「でも私…私もう動けないよ…。私がスクールアイドルを始めたのはみんなのためじゃないんだ。見てほしかったのはたった一人だけだったの。」

歩夢「だけど今は変わってきてて、こんな私を良いって応援してくれる人がたくさんいて、その気持ちが嬉しくて大切で…。今は私の大好きな相手が侑ちゃんだけじゃなくなってきて…本当は私も離れていってる気がするの。」

  前者の返答は今までの視聴者の受け取り方と一致していた。後者のセリフを聞いて上原歩夢のことを理解する。侑のためのスクールアイドルでいたい、だけども同好会に入って世界が広がりそこで出会った人々、ファンになってくれた子たち、大切に思えてしまうものが増えていった。侑が自分の夢を見つけ離れていってしまう、それと同時に自身も侑から離れていくことに恐怖を覚えていた。だから自分の気持ちに再び蓋をして、前に進むことも留まることもできずに身動きが取れなくなっていたのだ。1話の頃と同じ、自分の好きなものに素直に向き合えずにいる。

 それを聞いてせつ菜は

せつ菜「私も我慢しようとしていました。大好きな気持ち。でも、結局やめられないんですよね。」
せつ菜「始まったのなら、貫くのみです!」

 と返す。1度は自分の「大好き」から目を逸らし、スクールアイドルをやめたせつ菜からの言葉は重みが感じられる。ここでまた、虹ヶ咲のテーマに「自分に正直になること」「芽生えた想い(衝動)を無視してはいけない」があることを思わせられる。この言葉を聞き、歩夢は

歩夢「止めちゃいけない。(自分の気持ちを)我慢しちゃいけない――。」 

1話のあのセリフを反芻する。上原歩夢は再び前へ進み出す。初めの一歩を踏み出したあのときと同じ、自分の気持ちと向き合い正直になることで再度前へ踏み出せるのだ。

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 侑に会うためライブ会場に訪れた歩夢は、ファンの子たちと侑から花を受け取る。 

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「黄色いガーベラの花言葉は、愛。私たちの気持ちです!」*8

 そして侑からも。花言葉

侑「変わらぬ想い。」
侑「それだけは変わらないってこと。」

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 あえて直接的な表現を避けているものを言語化するのは無粋かもしれないが、それぞれが別の夢を見つけ、道を違えようとも侑が歩夢を思う気持ちだけは変わらない。今までと同じように、これからもずっと。侑との関係性の変化を何よりも恐れていた歩夢へはベストアンサーだったのではないか?

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 侑に抱きついた歩夢を見たファンの子たちが「ずる~い!」なんて言って歩み寄り、それすらも抱擁する姿は彼女の変化を象徴するものだ。今までは侑だけが大切で、それだけだった。でも今は違う。スクールアイドルを続けている内に大切なものが増え続け、もう両手では抱えきれない。

 「前に進むって、大切なものが増えていくってことなのかな。」これが歩夢の出した答え。自分の「大好き」と向き合うことで歩みを始め、世界が広がっていくのに困惑し戸惑いを覚えながらも前に進むことを決意した彼女らしい結論だと思う。まだ最終話前だけれども、これがアニメ虹ヶ咲の言いたかったことなのかもしれない。

 

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 二人は以前のようにあの階段の前に並ぶ。「バラバラだけど想いは1つ。」同じスクールアイドルの道を行けども目的地が異なる同好会のメンバーもそうであるし、これから全く違う道を進もうとする侑ですらそこに含まれる。だから前進することに迷いはない。互いを想う心はいつでも同じだから。

侑「私ね、音楽やってみたいんだ。2学期になったら音楽科への転科試験を受けようと思ってる。」

歩夢「私は、みんなのために歌うよ。」

 ようやく歩夢は未来を見ることができる。侑と道を分かつことを受け入れることができる。11話, 12話前半で見せた動揺はなく、今はただ笑って送り出す。

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侑「私が夢を見つけられたのは、歩夢のおかげだよ。」
歩夢「私も侑ちゃんがいたからスクールアイドルを始めることができたんだよ。」
歩夢「侑ちゃん、今までありがとう。」
侑「歩夢、今までありがとう。」

  決別の言葉。そこにネガティブな含みは一切なく、前を向くポジティブさに満ちている。二人の始まりの場所で、もう一度始まる。今度は違う方向を見ているけれど、想いは1つだから恐れはない。

 彼女は再び歌う。大切な人へ向けた別れの歌を。

Awakening Promise

  1話はアリスという明確なモチーフがあったのに対し、12話は何か要素があるのかまだ分かっていない。

 歌詞は、スクールアイドルを始めてから侑と歩き続けてきたこと、増えていく「大好き」に戸惑い立ち止まることがあったこと、前に進める理由を見つけたこと。ABメロはそんな現在までの道のりを歌い、サビでは未来の話をしている。

 また、ステージの花はローダンセに変わっており、止まった時計に置かれた青いカーネションではなくなっている。青いカーネーションもローダンセも、これから先 続く想いについての花言葉を持っているのに後者はポジティブな印象を受ける。流れる楽譜の意図は分からないが、歩夢がスクールアイドルになっても侑が共にあることを画で表現しているならいいな~、なんて考える。

 「Dream with You」では侑がいるから前に進めた歩夢が「Awakening Promise」では一人で進んでいくことを誓う。同じステージなのに対象的な歌を歌われると弱い。「みんな」のために歌うことを決めた歩夢が最後に侑一人へ向けた決別の歌がとても明るく希望に溢れた曲調であるのに涙を流してしまった。

 

  このツイートが少し気になった。1話のライブを見ている間、確かにどこか(この場合は侑だったのだろう)を見ているカットが多いように感じられ気になっていた。12話のライブを見ていると、なるほどこっちを向いているような気がする。完全に納得できたわけでもないが、これから意識して見てみようと思う。


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侑「これからも」
歩夢「よろしくね!」

 ライブ直後の会話。1話では不安そうな顔をした歩夢が発した言葉に対する侑の返答のリフレイン。

歩夢「私の夢を一緒に見てくれる?」
侑「もちろん!いつだって私は、歩夢の隣りにいるよ」(1話)

 同じ夢を見る約束は棄却されているものの、これからも変わらないでいることはローダンセで約束されている。12話の特にBパートは1話の要素を止揚する形でリフレインされており構成の巧みさに膝を折ることしかできなかった。構成もその中身もなんて綺麗なお話だったんだろう。このアニメに出会えてよかった。何度も言う通り最終回を残しているけど、何も不安がない。これだけ絶大な期待をしているにも関わらず。もうこのアニメに対し信頼しかない、そんな上原歩夢と高咲侑のエピソードだった。

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歩夢「何気なく過ごしていた頃からは想像もつかないほど、目まぐるしくでも楽しい日々。私たちの答えはまだ分からないけど、一緒に歩いていこう!これからもずっと!」

暗喩に使用された標識

 11話以降は画面を専有して描写されることが多かった標識たち。ここまで分かりやすく示されれば流石のわたしも気づいてしまう。なので、気づいた表示を少し書いてみる。

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 まず11話のこれ、11話時点ではよく意味を読めなかったものの、12話まで見ればクリアになる。歩夢が見ることを拒絶した未来を示しており、違う道に行く二人を表している。

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 これもまた11話のもの。未来に進めば、または自らに芽生えた「大好き」を認めてしまえば侑と別の道に進んでしまうことが分かっていたので、ストップをかけている歩夢の心情を示す。

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 そして12話。青信号と転回禁止の標識が前へ進む決心をした歩夢そのもの。

 

 標識ではないがあの階段に向かう際に1話ではバスを使い12話では徒歩で行っている。何かしらの意味がある変化なのだろうが、まだその内容を理解できていない。


雑感

 話を軽く整理したいな~なんて考えて書いていたら、端的にまとめることを知らずダラダラと文章を書いてしまった。もう完全に自分の整理用ノートになっている。アニメ、文章に出力したほうが視界がクリアになるからしょうがないね。一度文章にして解像度を上げてから他のオタクの文章を読んでさらに理解を深めていくのが理想の形だと思ってる。自分だけの凝り固まった視点じゃなくて、他の視点から見た作品像を知ることは大切*9。わたしがここまで長々と書いたことも、アニメを見れば一目瞭然の事実だけで、その裏に込められた意図なんかは全く汲めていない手応えがある。映像中にも様々な意味を含めて作っている本作は自分が掘り切るにはいささか実力不足の感が拭えない。

 

 話を整理しているうちに浮かび上がったまま解決できていない疑問もいくつかあり、まず上に書いたバスの件、それと1話で侑に渡したパスケースだ。これが今の私の精一杯と言いながら渡すパスケース、アイテム自体にもそのシチュエーションにも意味があるはずなのだが分からない。パスケースに入れるものは定期や切符、とりあえずどこかへ行くのに必要な物だ。お揃いのパスケースを渡すことは一緒にどこまでも行こうという気持ちの現れなのか。ここらへんは想像の域なので明確な答えが出ることはないと思うが、とりあえずの回答はこんな風にしておく。

 あとは1話と12話のライブ衣装の変化だろうか。歩夢のパーソナルアイテムになっているリボンが1話では背中側、12話ではお腹側に付いているのは何か意味があったのか。歩夢にとってのリボン(=可愛いもの)は隠し続けてきた「大好き」を象徴するものだという理解なのだが、その位置についてこれといった意味を見いだせない。単純にそこに意味はなくただのデザインなのかもしれないが、少し気になった。

 

 それにしても、12話の流れは本当に綺麗だった。1話をああ上手く使われるとこちらも屈服するしかない。所々を見ると変わっていないように見える二人だけども、心のあり方が全く違うのだ。12話で歩夢を突き動かした答えが1話で既に用意されていたのでもう完全に敗北したし、1話と同じ約束が意味を変えて再び結ばれるリフレインのやり方、この2つの話の接続がとにかく美しいよ。12話を見てからの虹色Passions!とNEO SKY, NEO MAP!はまた曲の良さにさらにひとしお。恐らくこれが実質の最終回で13話はエピローグのような具合になるんだろう。それか、同好会という集団としての答えが出されるのか。個としての答えは12話で十分に示されたものだと思う。かなり序盤から熱狂してたアニメだけあって最終回を迎えるというのは寂しい。けれどもアニメの答えは最終回にある主義者のオタクとしては早く見たい気持ちが強い。上に書いたけど、もうこのアニメに信頼しかない。楽しみに土曜日を待っている。

 

*1:このアニメにおいて、侑以外にあえてメイン・主役という言葉を使用するのが適切なのか葛藤がある。それぞれが、それぞれの主役だと思っているので。ただ、やはりこの12話までの流れを見ると上原歩夢がこのアニメの重要人物であることは疑えない

*2:5000字ぐらいに収めるつもりだった記事が、書いている内に取捨選択することもできなくなり文字数ばかり多くなってしまった。間延びしまくりなこれはもう自分用のメモということにする

*3:恐らく「個」を描くテーマとそれに対する「他者」についてのテーマも用意されているはず

*4:これが本当にカーネーションなのかは分からないが

*5:というのは語弊があるかもしれないけども

*6:わたしの経験を踏まえての想像だが

*7:12話前に見かけたスクスタキャプから先入観が生まれていたのも一因だ

*8:ファンの子たちも歩夢と同様重い感情を抱えてそうで最高

*9:特にわたしはアニメ分解能が低いので